2014/11/24発行 『ねこまた2巻』 試し読み03

城下怪談集 弐

くさなぎこだま

小豆と餅のはなし

 九重と伊右衛門が昼から茶屋の中でのんべんだらりとしていると、給仕の妙があきれた、という顔をした

「ほんとに、お二人はやることが無いんです?」

 伊右衛門が

「ないない、暇しておる」

 と言うと、隣で九重が頷いた。

 妙はため息をついて、まあいいか、と店の奥へ行ってしまう。

「九重、どうやらわしらは歓迎されていないらしい」

 伊右衛門が言うと、九重はお茶をすすって

「わたしはお茶を頂いてますから客ですが、伊右衛門殿は席を温めているだけですよ」

 と言った。

 毒舌じゃの、と伊右衛門がしょげたところに妙が奥から戻ってくる。

 その手には皿があったが団子ではなく見たことがない餅が三つ並んでいた。

 白い、まるい餅に葉が巻いてある。

「なんじゃそりゃ」

 伊右衛門がすかさず聞くと、妙は答えず九重と伊右衛門の前に皿を突き出す。

「食べてええよぅ」

 妙がそう言うや否や九重が一つとって一口でほおばる。

 そして「草がまずい」と言った。

「あぁ、この餅は草は外して食べるんだっけねぇ」

 妙が思い出したように言う。

「九重が可哀相じゃろ……」

 伊右衛門はおそるおそる餅を手にとる。草を外してかじる。

「甘いの。それに餡が入っておる」

 意外にもおいしい。

 九重と伊右衛門が平らげた後、残った一つを妙が草を外し、食べる。

「ほんと、おいしいよぅ」

「おい、わしらを毒味に使ったな」

「もらった相手が相手だったから、ちょっと心配でねぇ。見たことない菓子だし」

 怒っていいのか分からない、という顔をしている伊右衛門ともくもくと気にせず茶を飲み続ける九重。

「あんこを甘い餅で包んだ上から柏の葉で包む、てどんな感じか分からなかったし、それに、餡が心配だったんだよぅ」

 と妙が言い、けどおいしいし、今度うちの店で扱ってあげようかしらねぇ、とまた店の奥へ行ってしまう。

「柏の葉、ねえ」

 と伊右衛門は餅を包んであった葉を眺める。

 三枚ほしいのう、と伊右衛門は笑う。

「そういえば妙さん、この餅、貰ったと言っていましたがどなたに貰ったのでしょうね」

 九重が言うと、妙が店の奥から答える。

「この店の、近くの川でね」

 川?

 と九重と伊右衛門が顔を見合わせる。

 途端、天井からぱらり、と何かが落ちる。

「ほら、なんといったかな、あれに似てたのよ」

 ぱらぱらと続けて何か落ちてくる。

 九重が落ちてきたものを手に取ると、小豆であった。

「最近毎晩聞こえるなとは思ってたけど、まさか、こんなおいしいものをこしらえてたとはねぇ」

 天井からしゃくしゃくと音がする。

 しゃくしゃくしゃくしゃくしゃくしゃく。

 しゃくしゃくしゃくしゃくざく。

「あぁあれだ、小豆洗い。あんな感じの」

 妙の楽しげな声と一緒に天井から小豆をとぐ音は鳴り止まなかった。

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