2014/11/24発行 『ねこまた2巻』 試し読み02

見えない階

向日葵

 初めて彼女を見たのは、春の終わりだったように思う。

 バイト先のカフェには昼も過ぎて人の波が一段落し、私はもうそろそろ暑くなるなぁ、と思って、何気なく店の向かいの道路を見やった。こちら側の歩道には、綺麗に着飾った人々が楽しげに歩いていき、道路には車がスピードを上げてどんどん通っていく。道路を挟んだ向こう側では、同じように着飾った人々がこの世の春を謳歌せんが如く、歩道を闊歩していた。

 カラフルな服が楽しそうに歩いている中で、真っ白なワンピースはひどく目立った。彼女が歩く度に、裾はひらりひらりと靡いて、長い黒髪もゆるりと踊る。まるでそこだけ時間の流れが違うようだった。真っ直ぐ前を向いていたその顔が、ふと上を向いたかと思うと、彼女はにこりと笑った。

 ふと足が上がり、見えない階段をかけ上がるように、地面から空へ浮かんでいく。ワンピースの裾が空気を含んで膨らむ。そして、等間隔に並んだ街灯から街灯までふわりふわりと飛んでいった。なんだあれ。あり得ないその様をぽかんと口を開けて、私は見ていたように思う。その後、ぼけっと外を見ていたことに気付いた同期に小突かれて、彼女を見失ってしまった。ともかく、それが彼女との最初の出会いだった。

inserted by FC2 system